古くから自動車産業の工場地帯となっている群馬県太田市で自動車部品などの生産システムをつくってきた古川製作所。今回同市内に新たに工場地帯が造成されるのにあたり、その新社屋と自動車の生産ラインをつくる工場を計画した。
古川製作所は、溶接、ハンドリング、搬送などの産業用ロボットを活用した多種多様な作業工程をオーダーメイドで組み合わせた「生産システム」を提供することで、クライアントである大手自動車メーカーや部品メーカーのものづくりを支えてきた。しかし、こうしたものを「つくる」ためのシステムを「つくる」企業という性質上、会社としてわかりやすい存在感を示せていないという課題を長年抱えていた。また、クライアントであるメーカーの開発段階に関わるため情報の機密性が重要視されることから、会社を外に対して開きにくいということもあった。それゆえに製造業全般の課題でもある人材不足に悩まされていた。技術力の高い歴史ある会社であるにも関わらず、どんな会社なのか認知されにくく、会社の求める人材が集まらなかった。
そこで今回のプロジェクトでは、これまでこの地域でいくつかの建物に分散・拡張してきた機能を一か所に集約し、会社の顔となる開かれた建築をつくることを目指した。集約するとは言え、外構には駐車場から外灯、誘導サイン、標識、道路の路面標示、植栽など様々あり、オフィスと工場は用途も求められる精度も予算も大きく異なる。本社内だけでも食堂から研修室、執務室、会議室、社長室、水廻りまで用途が階ごとに様々ある。必要な家具も照明も空間のスケールもそれぞれの場所で求められるものが異なる。そうした多様な要素でありながらも一貫した軸を通すために、敷地全体に約1.2mのグリッドを敷いて、そこを基軸に計画を行った。
具体的にはまず、敷地は2万㎡の広大でまっ平らな土地で道路に取り囲まれているが、敷地の内外を隔てる塀やフェンスなどを建てて領域を主張するのではなく、周辺と連続するように敷地内の駐車場や外構部分も道路と同じアスファルト舗装とし、また一般の道路標識とデザインをそろえた標識を敷地内でも用いることで敷地の内外をつないだ。そして駐車場の区画、標識、道路の路面標示をグラフィックデザインとしてグリッドに絡めて、複数の建築と外構を関係づけるグリッド×グラフィックシステムを作った。工場やオフィスの構造体、ガラス壁面の方立てに使用したグリッドは外構のグラフィックと連動している。
オフィスは階ごとの異なる機能、各部署の関係に基づいて合理的にプランニングしているが、全体を見渡したときに一体となった表情豊かな顔となるようにした。1階には社員80名が集える食堂があり、食堂の吹き抜けとつながった2階に外部利用者も入る大会議室兼研修室がある。3~4階は執務フロアでデスクスペースと4つの会議室があり、5階には社長や幹部が使用する諸室と屋外テラスがある。そのように各フロアとも機能が異なり、必要面積も異なるが、外構や建築と同じグリッドに基づいてレースウェイ、間仕切り、吹き抜け、インターフェースを配置しながらそれぞれの場所を作り、その場所ごとに適した照明を使い分けた結果、均一ではない表情豊かな顔が生まれた。
このプロジェクトが核となって会社のリブランディングが進んだ。いま製造業に限らず多くの業界で人材不足が問題となり、特に製造業は地方の衰退に直面しているが、今回のプロジェクトによって、企画提案から製作、トライまで一貫体制で担う会社の存在が分かりやすくなっただけでなく、リクルートにも効果が出ている。特に地元に住む経験ある女性からの応募が10倍以上増え、採用率が上がった。また本社と工場のスタッフの対面でのコミュニケーションが増えた。自分たちが設計したものをすぐ見に行けて工場からのフィードバックもその場で得られることで、製品の質も生産性も向上した。
(仲野康則)
チーム:
建築家: 長坂常 / スキーマアーキテクツ
プロジェクトチーム:中野泰典
家具チーム:上野央
構造設計:株式会社テクトニカ
MEP設計: ZOコンサルティングエンジニア
施工:関東建設
協力: NDC色部デザイン研究所(サインデザイン)、橋爪鉄工所(ワイヤーメッシュ家具)、モデュレックス(照明)、遠藤照明株式会社(照明)、ホシザキコーポレーション(キッチン)、株式会社ヤードワークス(植栽)、株式会社エクズズ(タイル) )
撮影:太田拓海